働き方改革関連法案が可決され、2019年度から順次施行されていくことになりました。
その中の「高度プロフェッショナル制度」がトピックスとなって、様々な議論を呼び起こしています。
私も詳しくないながらもこのブログで述べています。
ですが、この関連法案には他にも議論を呼ぶポイントがあります。
それが「同一労働同一賃金」の条項です。
今回は、同一労働同一賃金について私の考えや疑問を書いてみたいと思います。
目次
法案は成立したが、納得できない点がある
ずっと昔から存在する、正規雇用者と非正規雇用者(期間雇用者・派遣労働者等)の間の賃金や待遇の格差。
この正規・非正規労働者間の賃金格差を是正するべく、同一労働同一賃金という言葉が生まれました。
同じ働き方改革関連法案に含まれる「高プロ制度」と対比してあまり語られることがないのは、同一労働同一賃金の考え方が「平等」「公平」の精神に適ったものであるからです。
ここでいう弱者とは非正規雇用者となり、弱者を救うことに繋がる考え方であるという点が「反対派」を生まない、もしくは反対しにくい問題という構造であるからだと思います。
私も、この考え方自体は素晴らしいし、特に非正規労働者側の悲願でもあった事を実現できる可能性を秘めた法律だとは思います。
ですが、何故か腹に落ちない点が残るのも事実です。
指針としては素晴らしいが、実際それを実行できるのかな?という点で疑問が残ります。
何をもって同一労働とするか
何をもって同一労働と考えるの?
疑問点の1つめとして、まず「同一労働」という部分ですでに非常に疑問です。
何をもって「同一」というのか。
例えばとある自動車メーカーでの工場勤務で考えてみましょう。
Aさんは、普通自動車の部品の組み立て工程を行っています。
BさんはAさんと同い年で同学歴です。更にAさんと同じ工場で、軽自動車の塗装を行っています。
さて、AさんとBさんは同一労働と言えるでしょうか?
これほど近い勤務場所、業務内容でありながら、同一作業と自信を持って言うことができるでしょうか?
はなはだ疑問を感じます。
例えば組み立てでも熟練の技術が要求される場合や、塗装でも誰でもできるわけでなく経験により完成品のクオリティが変わる場合。
もうそれはいち労働者ではなく、技術者ですよね。
この状況でも「同一労働だから給料は同一と言えないまでも、近いレベルにしよう」と考えられるのでしょうか。
私はこれは「別の労働であり、賃金が違って当然」だと思います。
視点を変えてみる
今回の同一労働・同一賃金という考え方の基になっているのは、実は上記のようなケースではなく、「正規・非正規で同じ職務に携わる者が、その職務以外の関係のない変数(勤続年数など)によって賃金に差が生まれてはならない」というものです。
そのような場合を考えてみましょう。
Aさんは同社で10年間営業部門で営業担当をしてきた。その後、製造部門に異動となり、初めて製造ラインで働くことになった。
Bさんは、他の会社で経理部門で働いてきて、昨年その会社を退職してAさんの居る会社に勇気契約社員として入り、初めて製造ラインで働くことになった。
このような場合を考えてみます。
私は、この状況ならいくらAさんとBさんが同い年で、共に初めての製造業務に携わったといえ、賃金に格差があって然るべきだと思うのです。
後から入ってきた非正規雇用のBさんがいきなりAさんと同じ給料をもらったと知れば、Aさんは気分が良くないでしょう。
自分がAさんだったとしたら正直腹が立ちます。
この状況でも同一労働同一賃金である必要があるのでしょうか。
実はガイドラインに書いてある
ここまでは、私がこの「同一労働同一賃金」という言葉を深く考えずに感じたことをそのまま書きました。
実はこの答えは、法案のガイドラインにありました。
基本給が、職務に応じるもの、職業能力に応じるもの、勤続に応じるもの等、様々な性格で決められている事実を認め、それらの事実が同一である場合は同一賃金とし、違いがあれば違いに応じた支給を求める。
とあります。
つまり、基本給の決め方に関しては多様性を認め、その会社のルールによって賃金体系はさまざま。
でもその決め方のルールで同じ区分に属する場合は同じ賃金にしましょうね。
ということのようです。
現在の日本の賃金の決め方は大変複雑であります。
かつての終身雇用制度を前提とした、年齢や勤続年数により高くなる賃金体系と、昨今取り入れられている成果主義・実力主義での賃金体系がハイブリッドになっている面があります。
上場企業などは、評価制度もしっかりしていますので公平・公正な賃金の決め方がされている割合も高いと思います。
しかし、中小企業に関して言えば社長が好き嫌いで決めたり、なんとなく仕事ができるからというような曖昧な評価基準で賃金や昇給、賞与などの待遇が変化することが多いのではないでしょうか。
このような状況のなか、一気に各個人間の賃金格差を縮め、なくすような事は現実的に不可能であると思います。
主目的である非正規雇用の賃金を増やすことも困難。
また、非正規社員については企業から見れば「安く、いつでも切る事ができる労働力」として捉えている場合がほとんどです。
それを正規社員と同程度の賃金に引き上げた場合のコストアップを、製品価格に転嫁できる経済状況であるとは到底思えません。
この現実を、突然降って湧いた法律と曖昧なガイドラインだけで解決ができるのでしょうか。
はなはだ疑問に感じます。
給料以外の福利厚生等はどう考えるのか
ちなみに、今回の同一賃金という言葉には、基本給だけでなく、賞与や各種手当、福利厚生までを均衡させようという内容になっています。
企業側の抜け道と考えることができる「ボーナス・手当・福利厚生での格差を残すスキーム」を完全に潰すためのガイドラインです。
全てを正規雇用者と同じ考え方で雇え。というもの。
従来支払う必要のなかった賞与まで支払わなくてはいけないという考え方です。
これは企業にとっては簡単に解決出来ない問題であるでしょう。
景気のクッションとなっていた人件費の柔軟性を奪うことになる
最近はアベノミクスの効果(と言われているが)で、大企業中心に景気が上向きになってきています。
結果として、空前の労働者不足の状況が続いており「労働者の立場が強い時代」といえる状況です。
その中で、企業側もこの同一労働同一賃金に従わざるを得ない部分もあるでしょう。
しかし景気はナマモノです。
もしかつてのITバブル崩壊やリーマンショック規模の自らコントロール出来ない不景気が訪れたらどうなるでしょうか。
おそらく労働市場が縮小し、かつての「就職氷河期」みたいな状況になるかもしれません。
そのとき、非正規雇用者のコスト増加は企業の体力をガッツリ奪うことになることは明白です。
今回の法律が施行され、非正規雇用労働者の待遇が改善されたとします。
ではその改善に使われたお金はどこから出るのでしょうか?
もちろん、打ち出の小槌のように企業に無制限にお金が降ってきたり、政府から助成金が出るわけではないのです。
同一賃金化した場合の人件費負担は、他ならぬ企業が負担することになります。
当然、企業が負担をするということは、近い将来のコスト増加を招き、長期的には内部留保の取り崩しを行うことにつながります。
内部留保はいつか会社にとって逆風が吹いたときに、従業員を守ってくれる最後の砦でもあります。
その事実を忘れ、内部留保をせず従業員の待遇アップを推進する政府の姿勢もなんだか無責任な気もします。
賃金は簡単には下げられないのです。
ガソリンや食品は市場によって価格を上げ下げできますが、賃金は上げる一方なんです。
そう考えると企業が内部留保をせず、待遇を改善することに及び腰というのも納得できる話です。
同一賃金というのは、見通せない経済状況に対する緩衝材であった「労働力の流動化・機動性」を失わせ、固定化させることになります。
やがて来る不景気のときに、かえって企業の首を締める結果になってしまうのではないでしょうか。
結局、その時の経済状況によって立法の方針も風見鶏のように変化をしていくということでしょう。
日本の景気に陰りが出てきたときに、今回の同一労働同一賃金は結果として逆に雇用を奪っていくことにならなければいいですね。
派遣労働者の賃金はどうやって同一にするのか
もう一つ気になる点があります。
それは労働者派遣法の改正内容です。
派遣に対して同一労働同一賃金を実現しようとする場合に、派遣元・派遣先どちらの賃金をベースに考えることになるのでしょうか。
派遣先に合わせる場合
同一労働という意味に重点を置く場合、派遣先の勤務実態と同一と認められる場合には、派遣先の正規雇用者と同じ賃金であるべきです。
ですが現状派遣先の正規雇用者の賃金テーブルを派遣元に開示するような文化はありません。
それを派遣先に合わせるとなった場合には、派遣先の賃金テーブルにあった給与をベースとして考えることとなり、賃金の決定権は完全に派遣先に移ることになります。
すると派遣を開始するまでに考慮すべき事項がグッと増え、派遣の機動性が失われる事につながります。
また、派遣元にとっては派遣労働者に支払う給与=原価 が固定されることで、派遣先から受け取る契約単価との差額で利益割合が簡単に計算出来てしまうことになります。
結局、その派遣元の利益部分が低く設定できる派遣会社に受注が集中することになり、派遣会社は仁義なき利益削減時代に入ることになるでしょう。
派遣元に合わせる場合
派遣元の賃金テーブルに合わせる場合は、労働者にとっては同じ職種であればどこの会社に派遣されようが同じ賃金になります。
その場合、同じ職場で働く正規雇用者と自身の間の賃金格差はそのまま残ることになります。
場合によっては、派遣元の賃金テーブルの方が良い場合も発生することもあると思いますが、これは法の精神には即していないと思います。
派遣労働者にとっては、同じ派遣元に属し続けて同じ職種を臨む限りどこの派遣先に行っても同じ賃金となりますので、ある意味派遣元に対する不満はなくなるというメリットはあるかもしれません。
いずれにせよ問題は残る
派遣元・派遣先どちらの賃金テーブルに合わせるかはまだ詳細が決まっていませんが、どちらにしても問題は解決しないような気がします。
そもそも、同一労働同一賃金にするなら派遣という働き方自体にあまりメリットが感じられなくなると思われます。
まとめ
ここまで同一労働同一賃金の問題点を中心に書いてきました。
平等・公平な社会は、成熟した社会において必ず目指すべき到達地点であることは否定もしないし、今回の法案はそれを一部実現できる法律だと思います。
ただし、細かい部分の議論やシミュレーションがまだ不十分であり、もう少ししっかりとした審議がされるべきだとも思います。
施行まで最大3年近くあるわけですが、各企業にとっては従来の正規雇用の賃金テーブルも含め見直す事になり、企業によっては大幅コスト増加に繋がる可能性もあります。
構造改革には痛みを伴うとはいえ、ここまで重要な法律はもう少し準備期間があるべきと思います。
この法律により誰もが気持ちよく働ける社会が来ると良いですね^^
コメント残しておきますね。
あなたは経済をわかっていませんね・・・同一労働同一賃金が何故必要か・・・
それは日本の経済のためです、非正規雇用が半分も居てその人たちが金を使えない、お金がないと経済が衰退するんですよ、今までは正規雇用だけだったので問題なかったんですが、非正規雇用だらけになったので、少子化、経済の衰退、税収も下がります、金持ちは金持ちになりますが・・・国民の9割は平民なのでそのうち半分が金無いと経済が衰退します、これが全てなんですよ、もう一度言いますが、半分の人が貧乏だと子ども生まないし、金も使えないし、使わないし、生活保護増えるし・・・どんどん国力が低下していくんですよ、負の連鎖です。なので同一賃金同一労働にしなければいけないんですよ。非正規雇用でも当たり前に結婚できて子ども養えてって社会にならないと経済は衰退してしまうんですよ、人口も減ります。なので外国の先進国は同一労働同一賃金にしてるんですよ。今の状態は経営者が非正規雇用が貰うはずの賃金を奪ってる状態なんですよ、彼らはお金を貯めるだけでそこまで消費しません、子どもを非正規労働者の数だけ作りません、なので経済は衰退していくのです。今のままでは2050年には4000万人になるといわれています・・・国力が半分以下になりますね・・・ものすごい損失になるってわかりますよね?なので同一賃金同一労働にしようとしています。非正規労働者をバカにするのは日本独特の階級制度らしいですよ・・・改めなければいけないでしょうね。
コメントありがとうございます。
確かに経済をわかっているとは言えないでしょう。
非正規雇用を正規雇用にして、同一労働同一賃金に引き上げられる程の財源が各企業にあるでしょうか?
バブルとは言わないまでも、ある程度順調に経済が成長しているなかなら、こういった整備にも耐えることができるかもしれません。
なんとか正規・非正規を使い分けることでなんとかやっていけている状況を、理想だけで「はい、同一労働同一賃金です」ということは
難しくないでしょうか。
それこそ、人件費を払えない部分を、大量の失業者が発生する原因にならないでしょうか。
その失業者が全員、次の仕事につけるほどの経験や技術などを持っているでしょうか。
なんとか非正規で賃金が安くても今のまま働くしかない という人はどうなるでしょうか。
かなり根深い問題で、経過措置であったり、もっと当面の対策を考えないと逆効果になる恐れもあると思ってます。